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「夜の片鱗」 [映画]

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〔1964年/日本〕


街角に立ち、男に声を掛けては体を売る芳江(桑野みゆき)は、
ある日、彼女を買ったサラリーマン・藤井(園井啓介)と何度も会うようになる。
藤井は芳江を街娼としてでなく、
一人の女性として愛するようになり、
足を洗うようにと説得する。
そんな芳江の頭の中に、
ここまでに落ちてしまった4年間が蘇る・・・。


4年前、19歳の芳江(桑野みゆき)は、
工場で働く傍ら、夜、スナックでバイトを始め、
客として来ていた英次(平幹次朗)と親しくなり、
いつしか英次のアパートで暮らすようになる。


サラリーマンだとばかり思っていた英次が、
実は、そこら辺りの縄張りとするヤクザの組の構成員だと分かるが、
その頃には、もう英次と離れられない関係になっていた芳江。
英次は次第に正体を現し、
芳江に金の無心をするようになる。


芳江の金が底をついてくると、
英次は客を取れと言い出した。
激しく拒否する芳江だったが、
結局は彼の言いなりになり、
英次の連れてきた客と関係する。


そんな生活に嫌気が差し、
実家に帰った芳江だが、
逃げた女をヤクザの組が許すはずはなく、
連れ戻された彼女を待っていたのは
男たちからの容赦のない仕打ち・・・。





これはもう、壮絶。
壮絶すぎて言葉も出ない。
映画を観る時、
自分がどれだけその映画に入り込めたか、
我を忘れて見入る事ができたかを、
評価の判断基準の一つにしているのだけれど、
完全に入り込んでしまった106分。


当たり前の事だけれど、
裏社会とは、絶対に関わってはいけないと、
強く思う。
主人公の芳江は、
どこで間違ってしまったのか。


そう、引き返すとしたら、
英次がヤクザと知った時しかなかったと思うけれど、
彼女は、
その時は、ヤクザの本当の怖さを知らなかった。
甘く見ていたのだと思う。


実家に帰った彼女を、
英次の組のチンピラが迎えに来た時、
「もうひどい事言わないなら、帰ってあ・げ・る」みたいな
呑気な事を言って、
のこのこ戻っていった彼女を待っていた、
壮絶な出来事。
おそらくヤクザって本当にそうなんだろうなと思わされる、
リアルで恐ろしい場面。


その後はもう、
転落一直線。
それまでも、英次に言われて客を取った事もあったけれど、
何というか、心の持ちようが全然違う。
街娼としてベテランの顔になり、
何も考えず、何も感じず、
神経はすっかり麻痺してしまった。


英次と芳江の関係って何なんだ。
愛情なのか、腐れ縁なのか、
それとも共依存か。
観ている私まで、心がすっかり麻痺してしまって、
何も考えられない。


途中、英次は、
抗争に巻き込まれ、
男としての機能を失う。
すると、その事で芳江に見限られるのを恐れるように、
彼女に献身的に尽くすようになるんだな。
それがまた、哀れっぽいとでもいうのか、
芳江が彼を捨てきれない理由にもなる。
人間の感情って、
単純なような、複雑なような、
そうなると、どうする事もできないではないか。


そんな芳江と出会い、
本気でプロポーズしてきた、サラリーマンの藤井。
藤井は、建築技師で、
北海道のダム建設現場で一緒に暮らそうと言う。


芳江がこの生活から完全に抜け出したいと願うなら、
彼の存在は、おそらく最後のチャンスになるだろう。
芳江はどうするのか、
結末はここには書かないけれども。


評価 ★★★★★

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コメント 8

lequiche

トップ画像が1964年の作品とは思えないほど
洗練されたデザインですね。
良い作品は決して古びないのだと思います。
by lequiche (2015-12-22 16:39) 

Mitch

恐ろしそうな映画ですね。
こういう世界とかかわらないで来られたことに感謝です^^
by Mitch (2015-12-22 22:04) 

青山実花

lequicheさん
コメントありがとうございます

カラーの蛍光灯が、
街娼をする桑野みゆきさんと重なって、
物悲しい雰囲気が醸し出される、
上手い写真ですね。

確かに内容的にも、
全く古びていない感じがしました。
人間がいる限り、
永遠のテーマなのかもしれません。

by 青山実花 (2015-12-22 23:42) 

青山実花

Mitchさん
コメントありがとうございます

こういった話に接すると、
裏社会と関わらずに生きてこられたことに、
心から安堵しますね。
この主人公のように、知らずに付き合っていたという事も
有り得ますもの。

by 青山実花 (2015-12-22 23:47) 

U3

結構話に引き込まれてしまった。
希望の持てる結末で終わって欲しい。
わたしの今書いている小説もそうする積もりだから。
by U3 (2015-12-23 05:58) 

青山実花

U3さん
コメントありがとうございます

希望のない結末は悲しいですね。
この映画について書けないのは残念なのですが。
by 青山実花 (2015-12-23 21:59) 

su-nya

桑野みゆきさんは、こういう役が似合ってしまうのですね。
ポスターを見て、観たいと思っていた映画ですが
こんなにも重いとは。
巷にあふれる三面記事や情痴絡みの事件、
ひとつひとつの背後には
こんなストーリーもあるのかもしれません。
by su-nya (2015-12-24 05:41) 

青山実花

su-nyaさん
コメントありがとうございます

私もそう思いました。
私たちにはありふれたニュースでも、
本人たちには、それぞれ
大変な物語があるんだろうな、って。
人間ってとっても深いんだと思います。
by 青山実花 (2015-12-29 09:21) 

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