「青ベか物語」 [映画]
〔1962年/日本〕
東京と川一つ隔てた向こうにある街・浦粕。
この集落に、
ある日、東京から小説家(森繁久彌)がやって来て、
住みつく。
「先生」と呼ばれる、その小説家は、
集落の老人から、
“青べか”と呼ばれる小舟を買わされる。
集落には実に様々な人間が暮らしている。
雑貨屋の息子(フランキー堺)は、
やっと来た嫁(中村メイコ)に指一本触れられないまま、
逃げられてしまう。
廃船をねぐらにしている船長は
遠い過去の恋愛話をいつまでも胸に温め、
「先生」に語って聞かせる。
足の悪い女房(乙羽信子)に献身的に尽くす夫は、
その理由を「先生」に打ち明ける。
そんなある日、小料理屋のおせい(左幸子)が、
先生に惚れてしまう。
しかし、「先生」にその気はなく、
おせいは腹いせに、他の男と心中未遂を・・・。
この映画の舞台、「浦粕」とは、
架空の町らしいけれど、
場所やその他の事から考えて、
現在の浦安市である事は、
なんとなく想像がつく。
原作者である山本周五郎が、
1928年頃、
ぶらりと出かけたこの街が、
とても気に入って、一年ほど住みつき、
その結果、この小説が生まれたのだそうだ。
浦安と言えば、
現在は、アメリカ資本の巨大テーマパークがある事は、
誰でも知っているけれど、
90年ほど前は、
この映画のように、
まるで世間から取り残されたような人々が、
賑やかに暮らしていたのかと思うと、
不思議な気持ち。
まるで治外法権のように、
この街独自のルールで暮らしているかに見える
住人たちだけれど、
決して嫌な感じはせず、
明るく、楽しそうだ。
そこは、同じ治外法権でも、
今年の夏に観た、
「気違い部落」とは全然違う。
http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2015-07-19
治外法権といえば、
集落に配属された、
若いお巡りさんなど、
住人には全く歯が立たない。
例えば博打を取り締まろうとしても、
なんやかんやと誤魔化されてしまう。
あんな若者がこの町に来るのは、
100年早いのよ(笑)。
そんな住人達の日常を、
温かく、時に冷めた目で見つめる、
森繁さん演じる、「先生」。
彼は人間関係に疲れると、
売りつけられた「青べか」に乗って、
一日ぼんやりしている。
潮が引くと、
「青べか」は、干潟にはまり動けなくなる。
潮が満ちると、また浮かぶ。
潮の満ち引きに身を任せ、
一日を過ごすなど、
なんとも贅沢に思えるのは、
私だけか。
私が書くと、ありきたりで陳腐な表現になってしまうけれど、
それは、失われてしまった日本の光景のように思える。
評価 ★★★☆☆
山本周五郎の「青べか物語」は大好きな本です。
あの舞台となった浦安が、
こんな世界に変ってしまうのかと思うと感慨深いものがありますね。
by 未来 (2015-12-21 16:31)
未来さん
コメントありがとうございます
おぉ!
原作読まれていますか。
面白そうですね。
私も図書館に予約を入れますね。
本当に、浦安に巨大テーマパークができるなんて、
誰が想像したでしょうか。
それはそれで楽しいですが、
失われたものも大きい気がします。
by 青山実花 (2015-12-22 23:38)