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「死の街を脱れて」 [映画]

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〔1952年/日本〕


第二次世界大戦で敗れた日本。
満州は大混乱となり、
威張っていた兵隊たちは、
真っ先に逃げ出し、
残された日本人・水戸光子ら、
女と子供ばかりの集団は、
途方に暮れていた。


「ここは日本人らしく、自決しようではないか」と
婦人会長は提案したが、
女たちは、
「我が子に手をかける事も、自分が死ぬ事もできない」と言い、
最後まで強く生きていこうと誓い合う。


新京へ行けば、日本に帰る船が出ている。
歩き出した女たちだが、
その道程は過酷を極める。
飢えと疲労は極限に達し、
それでも歩を進めるしかない。


やっと、日本人が運転する機関車に乗せてもらうも、
途中で中国人に見つかり、
全員射殺されそうになる。
機関士の取り成しで
思い留まってもらったものの、
もう機関車には乗せてもらえず、
再び歩くしかない。


人の肉の味を覚えた犬たちが
襲ってきた。
こんな調子で女たちは
新京まで辿り着けるのか・・・。





現在開催されている、「若尾文子映画祭」で、
若尾文子様の幻のデビュー作という事で、
上映された1本。


正直、幻のデビュー作というのだけが売りで、
内容については全く期待していなかったけれど、
これがもう、素晴らしい映画で、
私が若尾さんのファンという事を差し引いても、
十分に感動できる作品だった。


劇場内はシーンとして、
観客の皆さんがこの物語を
固唾を飲んで見守っているのが伝わる。


終戦直後、
中国にいた日本人の人々が、
どんな思いで日本に引き揚げてこられたか、
いままでにも、何本か映画やドラマで観てはきたけれど、
平凡な家庭の主婦たちだけの集団という設定が、
女の私には、大変に感情移入しやすく、
とにかく頑張ってほしいと、
手に汗握る思い。


女たちの殆どに
乳児や、幼い子供がいるのも、泣ける。
喋れる子供は、
「おかあちゃん、お腹すいた」と母に訴えるが、
「我慢してね」と宥め、
「お兄ちゃんでしょ」と叱咤するしかない、
母の気持ちが悲しくて。


この混乱で、
どれだけの日本人が命を落としたのだろうと、
そればかり考えてしまう。


以前に読んだ、
やはり中国からの引揚者を描いた小説では、
引揚者たちが、若い母親に、
「乳児が泣くと敵に見つかる」と、
寄ってたかって責め、
どうする事もできずに、
線路脇に子供を捨てたという内容に、号泣した事もあった。


母親はその事を悔やみ、
一生の心の傷として、
誰にも言えずに苦しんできたけれど、
その時捨てた娘が、
中国残留孤児として来日するという物語だったと
記憶している。


戦争は嫌だ。
人々は狂気となり、
愛する者を失い、
何十年経っても、
その傷が消える事はない。


若尾さんは、
主婦ばかりの女たちの中で、
一人独身役を演じている。


デビュー作とはいえ、
セリフも結構あるし、
これから売り出そうとする、
大映の方針が見えるような、
良い役だ。
貴重な映画を観られて良かった。


評価 ★★★★☆

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コメント 4

desidesi

ぜひ観ておきたい映画です。
私の祖母も、近い経験をしたのかな・・・。
あまり語ることもなく、すでにこの世を去りましたが。
by desidesi (2015-07-08 12:44) 

sig

戦後7年目の作品ですが、現実にまだ大陸から帰ってこない人たちがたくさんいたんですよね。これは公開当時、過去のお話ではなかったんです。
by sig (2015-07-08 17:23) 

青山実花

desidesiさん
コメントありがとうございます。

desidesiさんのお祖母様、
多くを語られなかったという事は、
もしかしたら、とても大変な体験をされたのかも
しれませんね。

こういった映画を、
今の中高生などが見る機会があれば、
色々考える事ができるのでしょうが・・・。
by 青山実花 (2015-07-09 20:33) 

青山実花

sigさん
コメントありがとうございます。

過去の話ではなく、現在進行形の話・・・。
当時の観客の中には、
辛い思いで観られていた方がいたかもしれないという事ですね。

戦争は、終わったからと言って、
人々の苦しみが終わるわけではないのですよね。
現代では、中国残留孤児の2世の問題が起こっているとか。
一度した戦争が人間に及ぼす影響は、
100年経っても消える事はないという事ですね。

by 青山実花 (2015-07-09 20:43) 

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