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「がめつい奴」 [映画]

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〔1960年/日本〕


大阪・釜ヶ崎の貧民街に住むお鹿婆さん(三益愛子)は、
ケチで有名。
彼女は、旅館とは名ばかりの、
客たちが雑魚寝するような宿泊所を経営し、
その金を貯めるのが楽しみだ。
彼女は他人はもちろん、
実の息子・健太(高島忠夫)さえ絶対信用しない。
唯一、彼女が心を許しているのは、
孤児で、少し頭のゆっくりな少女・テコ(中山千夏)だけ。


お鹿婆さんは、戦後のどさくさ期に、
釜ヶ崎の一帯を自分の土地だと言い張り、
そこに旅館を建てたのだ。


実は、宿泊客の1人・初江(草笛光子)こそ、
その土地の本当の持ち主であり、
権利書も有していた。
初江は常に、
「この旅館を立ち退いてもらう」と息巻いているが、
お鹿婆さんはまるで動じない。
さらに、初江の妹・絹(団令子)と健太が恋仲になってしまい、
余計に話がややこしい。


同じく宿泊客の1人・熊吉(森雅之)は、
初江を言葉巧みに誘い込み、
権利書を手に入れ、
さらに、彼女の操まで奪ってしまう。


そんな中、お鹿婆さんの義理の弟だという彦八(森繁久彌)が、
訪ねて来た。
調子のいい事を言いながら、
どこか胡散臭い彦八を、
お鹿は当然、信用するはずもない。


熊吉が、初江の権利書を二束三文でヤクザに売ってしまう。
それを知った初江は・・・。





面白い。
面白すぎる。
基本はコメディで、
何度も笑わせられるけど、
サスペンスな要素もあって、目が離せない。
手に汗をかいちゃって、
持っていたタオルで拭いたくらい。
笑いながら緊迫感を感じるって、
凄い事だ。


お鹿婆さんは、自分が持っている、
三千万円という大金
(現代に換算したら、一体いくらになるんだろう)を甕に入れ、
その上に梅干しを乗せてカムフラージュしている。
そして、それを知っているのはテコだけ。


婆さんの金を狙う彦八が、
テコを巧みに手懐けて、
金をいただこうとするのだけれど、
その場面が秀逸。
面白くて面白くて、見入ってしまう。
もちろん、事はそう簡単に運ぶはずもなく、
オチがまた、笑える。


初江の場面は悲し過ぎる。
傍目には、誰がどう見ても真っ当ではない熊吉のような男を、
なぜ信用してしまったのか。
「権利書を渡しちゃ駄目!」と、
本気で叫びたくなったくらい。


熊吉には、日本とロシアのハーフの嫁・おたか(安西郷子)がいて、
やはり同じような手口で金を巻き上げた過去があり、
現在はヒモ生活。
初江とおたかは、
1人の男を取り合う仲でありながら、
被害者同士ともいえる。
最初は争っていたが、
最後は同盟を結ぶに至る過程が素晴らしい。


不勉強な私は、ウィキペディアで調べて初めて知ったのだけれど、
この作品は、
元々、菊田一夫脚本の舞台劇で、
「キャッツ」に抜かれるまで、
ロングラン公演の記録を持っていたそうだ。


今では普通に使っている、「がめつい」という言葉も、
菊田一夫の造語だと知ってビックリ。
戦前の辞書に、
このような言葉は載っていないそうだ。


釜ヶ崎という場所と、
そこで暮らす人々がまた強烈。
釜ヶ崎の中で車が事故でも起こそうものなら、
5分も経たないうちに、
人々が寄ってたかって、車を解体して持ち去ってしまう。
警察が来た時は、事故の痕跡さえ残っていない有様(笑)。
(大きな声では言えないけれど、人が死んだ時も、
 洋服の一つも無駄にはしない)


こういった、カオスのような場所にたまらなく惹かれてしまう。
私のこの気持ちって、何なのだろう。
自分は殺風景とも言えるような、
物の少ない家に住んでいるくせに、
香港の九龍城、
ブラジルのファベーラなどなど、
たまに思い出しては、
画像を検索して、真剣に見てしまう。


こんな面白い映画が埋もれているのは、
本当に勿体ない。
1人でも多くの方に観てほしいという気持ちになります。


評価 ★★★★★

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