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「ベニスに死す」 [映画]

Venicenishisu.JPG
〔1971年/イタリア〕


キネカ大森で観た。


1911年、夏。
高名なドイツ人作曲家・グスタフ・アシェンバッハ(ダーク・ボガード)は、
避暑と病気療養の為、
ベニスに訪れる。


ホテルのロビーで、泊り客を眺めていた彼は、
ポーランドの貴婦人の息子・タジオ(ビヨルン・アンドルセン)を
一目見た途端、息を飲む。


この世のものとは思えない、その美しさ、
気高さ、はかなさ。
その瞬間からアシェンバッハはタジオの虜となり、
その瞳は、常にタジオを追い求めるようになる。


しかし、避暑に来たはずのベニスは、
アフリカからの熱風「シロッコ」が吹き、
アシェンバッハの体調は逆に悪化する。
彼は、ドイツに帰る事を決め、船に乗る。
ところが、彼の荷物が間違った場所に送られたとの
連絡があり、
またベニスに逆戻りする事になる。


タジオに再会したアシェンバッハの心は、
喜びに打ち震える。
美容院で、髪を染め、化粧を施してもらうアシェンバッハ。
その姿で、夢遊病患者のように、
タジオの後を付いて回る。


しかし、ベニスの町では、何か不穏な空気が漂っていた。
町中に消毒薬が撒かれ、
行き倒れになる人間もいる。
不審に思ったアシェンバッハが、
やっと聞き出した情報で、
町にコレラが蔓延している事を知る・・・。





今まで観た映画の中で、何が一番好きか、と、
時々、考えるけれど、
ルキノ・ヴィスコンティ監督の、
この「ベニスに死す」がずっと私の中でその位置にいる。


以前、ビデオで観た、
その時の衝撃は忘れられない。
人が人に魅せられる気持ち、
美しいものを求める心は、
誰にも止める事はできはしないと思った事を覚えている。
相手が、異性だろうと、同性だろうと、
そんな事は関係ないのだとも。


今回、初めて大きなスクリーンでこの映画を観たわけだけれど、
やっぱり感動の心は変わっていなかった。
タジオを初めて見た時の
アシェンバッハの衝撃。
その後、どうする事もできずもがく、彼の苦悩。


彼は決してゲイというわけではなく、
過去には結婚もしているし、子供もいる。
芸術家で、人より美に対する探究心が強い彼は、
タジオに魅せられ、
その美しさに絡め捕られてしまったのだろうと想像する。


タジオの方は、アシェンバッハをどう思っていたのだろう。
いつも自分を見ている初老の男。
でも、特に気持ち悪いとか、積極的に避けようとかいう
様子は見えない。
それどころか、何か挑発しているようにさえ
見える場面もある。
いや、それは、観ているこちらの気持ちが、
アシェンバッハの気持ちに同化してしまっただけで、
タジオには、そんな気持ちは更々ないというのが、
本当の所なのだろう。
彼は母親に連れられて歩くような、
まだ幼い少年なのだ。


一度、ベニスを去る事を決めたアシェンバッハが、
荷物の手違いで、戻ってくる船上で、
なんとも言えない、微笑みを浮かべていたのは、
ビデオで観た時から、忘れられない場面。
もう一度、愛する者に会えるという、
無上の喜び。
抑えようにも抑えきれない、その気持ち。


そしてその後の、
観ているこちらにしたら、常軌を逸しているかのように見える、
彼の行動。
当時、男性が化粧をする事があったのかどうは分からないけれど、
顔に不自然な白塗りをし、
口紅まで塗ったアシェンバッハの顔は醜悪そのもので、
ビデオで観た時は、
「もう、そんなみっともない事しないで」と思ったものだ。


でも、なぜだろう、
今回は、そんな風には思わなかった。
「やりたいようにすればいいよ」と、そんな風に感じたのよ。
初めて観たあの頃より、
私も少し年を重ねたという事か。


評価 ★★★★★

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コメント 4

ぼんぼちぼちぼち

名作でやすね。
DVDでしばしば反芻してやす(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2012-12-07 13:54) 

青山実花

ぼんぼちぼちぼちさん
コメントありがとうございます。

本当ですね。
美しい映画です。

観る人によっては拒否反応を表されるのも、
この映画の面白いところだと思います。
by 青山実花 (2012-12-07 14:49) 

su-nya

音楽と映像の相乗効果が迫ってくる映画だと思います。

同性しかも少年への狂おしい愛慕、アブナい度全開だけど
不思議に不潔感はありません。

私も大森で観たような気が…
by su-nya (2012-12-13 02:34) 

青山実花

su-nyaさん
コメントありがとうございます。

そうですね、
アシェンバッハが作曲家という設定なだけに、
音楽もとてもいいです。

全く同感です。
同性、ましてまだ幼い少年への愛なのですが、
なぜかイヤな感じはせず、
アシェンバッハの気持ちに寄り添ってしまいます。

by 青山実花 (2012-12-13 14:11) 

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