「婦系図」 [映画]
〔1962年/日本〕
帝大の教授・酒井俊蔵(千田是也)から財布を掏ろうとして、
腕を掴まれた少年は、
そのまま酒井の家に連れて行かれる。
酒井から、早瀬主税と名付けられた少年は、
書生として、酒井の家に住み込む事になる。
早瀬と同世代の、早瀬の娘・妙子は、
早瀬に仄かな恋心を抱くようになる。
酒井の温情で、勉学に励んだ早瀬(市川雷蔵)は、
帝大でドイツ文学を学び、卒業する。
彼には恋仲の芸者・お蔦(万里昌代)がおり、
就職を機に、酒井の家を出た早瀬は、
酒井に内緒で、お蔦と所帯を持つ。
妙子に、縁談が持ち上がる。
相手の男は、静岡の名家の息子だというが、
早瀬は、相手のいけ好かないその様子に、
妙子の幸せを思い、結婚を反対する。
それが相手を怒らせる事になり、
早瀬とお蔦の結婚が、酒井に知られる事になる。
芸者との結婚など許さぬと、酒井は怒り、
お蔦と別れるようにと、早瀬に厳命する。
恩と愛情とのはざまで苦しむ早瀬は、
湯島天神の境内にお蔦を連れ出し・・・。
泉鏡花の小説の映画化。
「別れろ切れろは、芸者の時に言う言葉。
今の私には、いっそ死んでくれと言って下さい」という、
有名なセリフを、知ってはいたが、
映像として観たのは初めてだ。
「なるほど、こういう流れで、そうくるのね」と妙に納得(笑)。
このお蔦がいいんだな。
自分が芸者という事で、
早瀬の出世の妨げになってはいけないと、
決して表に出ない、
その控えめな態度は、実に好感が持てる。
早瀬と別れた後、病に倒れたお蔦の家に、
妙子が訪ねてくる場面が素晴らしくて、
巻き戻して観ちゃった。
実は妙子は、酒井が芸者に産ませた子供なのだ。
で、母親は、お蔦の置屋の家の姐さん芸者・小芳(小暮実千代)。
お蔦の看病に来ていた小芳は、
我が子である妙子に初めて会う。
訪ねてきた娘が妙子だと気付いた小芳は、
慌てて足袋のまま三和土に下り、
手を取り、涙ぐむ。
自分の産んだ娘が、
美しく、心清らかに成長していると知った時の気持ちはどれほどのものか、
胸に沁みるような場面である。
その後の、女3人のやり取りも、大変にいい。
それにしても、
恩と愛情に挟まれて苦しめられるって、
大変に苦しそうだ。
酒井は、自分の事は棚に上げて、
人に要求ばかりする嫌な人間に描かれているし、
私も、こんな奴は嫌いだ。
ただ、原作の事は分からない。
もう少し、細かな描写があるのかもしれない。
評価 ★★★☆☆
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