「還って来た男」 [映画]
〔1944年/日本〕
軍医として戦地に赴いていた佐野周二が、
日本に帰ってくる。
父親、笠智衆は、早速彼に見合いを勧める。
佐野は見合いをするのは人生で一回だけだと決めている。
つまり、最初に出会った女との愛を貫くと言うのである。
しかし、見合いは一回だが、
彼は様々な女性から好意を持たれる。
電車の中で出会った女、草島競子。
彼女とは、その後、有り得ないほど何度も、
偶然出会う。
しかも、彼女は、佐野が探している戦友の妹だった事も、
後で分かる。
また、彼女が必死に探している家宝の仏像を、
今は笠智衆が所有したりもする。
観る者は、もしかしたら彼女が佐野の見合い相手なのかと
勘違いしそうなくらいの、偶然っぷりである。
しかし、彼女は見合い相手ではなかった。
相手は、これまた偶然にも、
草島の友人で学校教師の田中絹代。
田中と佐野の出会いも偶然である。
なんだかもう、全てが偶然すぎて、
逆に可笑しくなってくる。
けれど、実はそんな事はどうでもいい。
一番の驚きは、
この映画が作られたのが1944年の戦時中だという事だ。
そんな時期に作られた映画なのに、
例えば国民の戦意を高める為の国策映画とか、
そんな空気は全くない。
それどころか、
戦闘機のプロペラを作る為に奉公に出された小学生の男の子が、
家族恋しさに、何度も工場を抜け出して帰ってきてしまう場面や、
レコードでクラシック音楽を聞く場面まである。
こんな内容で、検閲は大丈夫だったのかと、
今頃になって、私が心配しても仕方のないような事が
気になるよ。
1時間ほどの小作品だが、
川島雄三監督のデビュー作というのが興味深い。
評価 ★★★☆☆
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