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「大人の見る絵本 生れてはみたけれど」 [映画]

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〔1932年/日本〕


麻布から東京郊外へと引っ越してきた、
お父さん、お母さん、小学生の長男、次男の四人家族。


長男と次男は、外に遊びに行くが、
そのあたりは、近所の悪ガキたちが幅をきかせており、
特にリーダー格の少年とはソリが合いそうにもない。


「学校で殴ってやる」と言われた兄弟は、
サボりを決め込み、
原っぱで習字をし、家に持って帰るが、
お父さんは路上で会った担任の先生から、
二人が学校に来なかった事を告げられており、
家に帰って二人を叱る。


お父さんは子供たちに常々、
「勉強して立派な人間になれ」と諭しているのだ。


そして、そんなお父さんは、上司にゴマを擦るのに忙しい。
そこに引っ越してきた理由も、
上司の家が近所だからなのだ。


兄弟は、少しずつ、悪ガキたちと馴染んでゆき、
その中の一人、お父さんの上司の息子から、
「今日は家で映画会があるから来ないか」と誘われる。


喜んで付いていくと、
そこにはお父さんも来ており、
上司に必死に媚びを売っていて、
さらには、会社の様子を映したという、その映像には、
普段の厳格なお父さんではなく、
まるでピエロのように、必死におちゃらけて
卑屈なまでに周囲を笑わせる別人のような姿があった。


兄弟はショックを受け、
家に帰ってハンストを決行。
彼らに、お父さんの苦労は伝わるのか。
そして、両者の間に立つお母さんは・・・。





小津安二郎さんの、初期のサイレント映画。
良いです。
とっても。


昔のお父さんや、学校の先生が、
いかに尊敬されていて、
そして、本人たちもそれを意識してか、
立派で威厳があって、
多少の事には動じない風格がある事が分かる。


けれど実はそれは、家族に見せる顔であって、
外に行けば、色々あるんだ、
大人だって辛いんだよ、と、
そんな気持ちを、ユーモアたっぷりに描いてある。


いつも父親から、「“甲”を取れ」と言われている兄弟は、
原っぱで書いた習字に、
「先生みたいな字で、“甲”と書いてよ」と、酒屋の小僧に頼む。
しかし、小僧が書いたのは、“申”。
観ているこちらは、「あはははは~、それじゃサルだよ~」と大笑い。


それから、5歳くらいの男の子の背中一面に何か紙が貼ってあり、
観る者に「何だろう?」と思わせておいて、
アップになってみると、
「お腹をこわしやすいので、食べ物を与えないで下さい」とあり、
これまた大笑い。


そしてこれは笑えると同時に、
昔の大人は、知らない子供にも、
お菓子なんかを普通にくれたんだろうな、
そして親も、子供も、疑うこともなく、
それ受け取ったり食べたりしていたんだろうなと想像でき、
そののどかな様子がとても羨ましい。


他にも様々な小ネタ満載で、
またブラックな味付けもありで、
まさに、「大人の見る絵本」だ。


評価 ★★★★☆

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コメント 4

yonta*

この作品、大好きです。
子どもたち、大人に対して帽子をとって、
きちんとあいさつするんですよね。
ピエロみたいなお父さんを見た後の兄弟には、
何度観ても泣かされてしまいます。
お母さんも素敵ですね。静かで優しいけれど、強くて。
by yonta* (2011-07-07 01:20) 

坊や

出勤時は背広着てさっそう行く父。 どんな会社なのか見たいと思い立ち
住所書片手に3駅先の会社に到着。 入ってみると工場。「なにしてるん」
と声掛けられ父の働いている所まで連れて行かれました。
「あれーどしたー?」と父の驚き顔。灰色の沁みのついた作業着。軍手は真っ黒。部屋は暑い。働いてるのを見たかったと言うのが精一杯で
急に涙があふれ出た。 想像とのギャップに驚き、父の汗だくの顔が
なんか、申し訳ない事を自分はしてしまった様に思えて泣いた。
周りの社員さん達に頭下げてる父の作業着の端をずっと握っていた。
小学校4年頃でした。


by 坊や (2011-07-07 10:07) 

青山実花

yonta*さん

そうなんですよね。
どんなガキ大将でも、
大人と接する時は、
きちんと礼儀をわきまえている。
その辺の躾は凄いなと思いました。

それから、この映画のお母さんは、
お母さんの鑑ですね。
多少の事には動じないし、
言うべき時はきちっと意見を言う。
あんな女になりたいものです。

by 青山実花 (2011-07-07 20:05) 

青山実花

坊やさん

素敵なお話ですね。
お父様はきっと、坊やさんが職場に来てくれて
嬉しかったのではないでしょうか。
背広を着て出勤なさるのも、
別に子供の前で取り繕うとか、そんな事ではなく、
通勤着として、それが一番相応しいと
お考えだったからだと思います。

この映画でも、
「お父さんが月給を貰うから、
お前たちは学校にいけるんだぞ」というセリフがあります。
働くというのは崇高な事だし、
まして家族を養っているお父さんは、
想像以上の責任感を持って、
仕事に臨んでいるのではないでしょうか。
by 青山実花 (2011-07-07 20:14) 

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